007/THE WORLD IS NOT ENOUGH
ワールド・イズ・ノット・イナフ


今は亡きQに捧ぐ、
20世紀最後の007にして、シリーズ屈指の異色作。

JAMES BOND/ピアース・ブロスナン

BOND Girl/デニス・リチャーズ(クリスマス・ジョーンズ博士)

Enemy/ロバート・カーライル(レナード)
BOND Girl2/ソフィー・マルソー(エレクトラ・キング)
犠牲者/ロビー・コルトレーン(ヴァレンティン・ズコフスキー)

M/ジュディ・デンチ
ミス・マネーペニー/サマンサ・ボンド
Q/デズモント・リューウェリン

監督/マイケル・アプテッド
音楽/デヴィッド・アーノルド
主題歌/曲:歌:ガービッジ

                        ()内は役名
story
 キング卿がMI‐6本部にて爆殺された。ボンドはこれを、テロリスト・レナードからMへのメッセージと読み取る。
Mからの指令を受けて、次に狙われるであろうキング卿の娘・エレクトラの護衛につくボンドだが、次第にレナードが核を使い、パイプラインの破壊を目論んでいることをつきとめる。パイプラインは西欧諸国の未来を担う重要なもの。ボンドはその阻止に動き出す。果してもう一人の内通者は誰なのか。
comment
 第19作目は、驚きの塊だった。ボンドが所属するMI−6本部で爆発が起こったり、M自身が拉致されたり、通常では考えられない事が起こったからだ。本部の中をボンドが叫びながら走っていくシーンはやけに新鮮だ。
 この作品は、何と言ってもオープニングだ。危機的な状況から脱出するタイプのものと、敵を追い詰めるタイプのものが二つとも組み込まれている。特に、後者の敵を追い詰めるタイプのボートチェイスは、シリーズ中最高の出来だと言い切りたい。窓からの、即興バンジ−もなかなかスタイリッシュで大好きだが。
 ボートチェイスは、本部が爆破されボンドが刺客の乗った船を見つけるところから始まる。刺客が船を始動させると本部から1台の黒いボートが飛び出してくる。追っ手だと認識した刺客は船のスピードを上げる。刺客にとって誤算だったのは、まさかそのただの追っ手がMI−6の誇る世界最高のスパイだとは思わなかったろう。
 このチェイスは本当に面白い。スピード感もさることながら、途中で沈むシーンでネクタイを締めなおすボンドには思わず笑ってしまう。本当に007ぽいのは、一度追っ手が炎の向こうに消えてしまってからで、普通の追っ手ならここで追うのを断念するだろう。だが、ここからがジェームスボンドたるゆえんなのだ。近道というか、無茶な陸上のショートカットをこなして相手の前に出るとすかさず攻撃開始。最後の最後まで、決してあきらめないないのだ。追い込まれてから真価を発揮する。007の面目躍如だ。
 全体的に、味わい深い作りで結構お気に入りなのだが、哀しいかな敵役のレナードは活かしきれてなかった。何せ痛覚の無い男なんていう素晴らしい設定なのに、ただのパシリに成り下がってしまっている。あと、何より許せないのが、日本版のみに付与されたエンディングテーマ:ルナシーの存在だ。この作品を劇場で8回程見たが、あの歌が始まるたびに席を立たねばならなかった。DVD版には、エンディングテーマとして007のテーマのアレンジが流れている。世界公開版もそうだ。ぜひそちらでご覧いただきたい。ああ、何でルナシー・・・
 今回も、車は出てくるが今回はキーによる遠隔操作はエンジンの始動と前進程度にとどまった。それでも欲しい。
 どうしても書いておかねばならないことがある。今作品は『Q』ことデズモント・リュ−ウェリンの最後の出演作となってしまった。あのQにもう会えないとは本当に寂しい限りだ。心からご冥福をお祈りする。
 最後に、タイトルの『The World Is Not Enough』は、女王陛下の007で紋章院に行った際に発覚することだが、ボンド家の家訓である。ぜいたくな家訓だ。


 ボンドの終盤のセリフ、 『I never miss.』
 これはミスらないということと、寂しく思わないという二つの意味がある。
 多くの人が去っていっても、ジェームスボンドはひたすら前を向いて生きるのだ。