雲の海と朝の光
まさかまだ6合目にも着いてないなんて事はないよなぁ、とか言うほど
そろそろ富士山のやばさに気がつき始めた頃、空も少しずつ明るくなり
始めていた。ライトを消しても歩けるぐらいになり、減り始めた木々の間
から下を見渡した我々は息を呑んだ。
眼前に広がる雲の海。下界ならただの曇りなんだろうが、しばし見とれて
しまうほどの圧倒的な迫力でそれは横たわっていた。
もうすぐ日も昇るだろうということで、開けた場所に荷物を降ろし、ご来光
を鑑賞する事にした。
やがて徐々に登り始める朝日。ある人はデジカメで、ある人は1眼レフで
またある人は携帯でそれぞれ写真を撮る。撮りながらも、写真では分から
ないものを目に焼き付ける。
『いやぁ来て良かった』と誰もが口にし、『もう帰るか?』なんていう冗談も
飛び出していたが、今にして思えばその冗談もあながち捨てがたいほどの
死の山・富士の真の姿が、これから現れる事になる。