夜行登山

  眠った時間は15分くらいだった。
  時間は深夜2時過ぎぐらいだったか。我々は、靴のヒモを締め、荷物を背負い
 ついに登山を開始する事にした。富士登山のスタート、その最初を飾るのは未だ
 かつてない夜行の登山という貴重な体験になった。
  
  須走口登山道は、新5合目の古御岳神社を起点とする。ヘッドライトを点けて
 先の見えない道を歩いていく。登山道というだけあって、確かに道しるべもあり
 道が分からないという事はないが、何せ明かりは自分たちのライトだけという
 状況。ライトの角度で、視界がずいぶん変わる。しばらくは我々5人の他に人が
 いなかったせいもあって、大層心細いスタートではあった。
  森の中を歩くように、徐々に登っていく。新6合目までは、こんな木々に囲まれた
 道が続くらしい。10分ほど歩いたら休む。また10分ほど歩いたら休むというペース
 で進む。所々に、森の切れ目がありその目印として満点の星空があった。

  正直、今回の登山で心底楽しめたのはこの夜行中だったような気がする。
 ライトを消せば全くの闇。そんな中で山を登るという、遺体を埋めに来た殺人犯でも
 ない限りあまり経験できない感覚が新鮮で良かった。