『スミス&ウエッソンは6発だよ』





007/Dr.NO
ドクター・ノオ

ジェームス・ボンド映画の第1作目は、
評論家の興味を引き、大衆の心をつかんだ。
ショーン・コネリーが007として定着し、シリーズ化が決定。





1962年 109分

制作 : ハリー・ザルツマン、アルバート・R・ブロッコリ、イオンプロダクション

監督 : テレンス・ヤング
脚本 : リチャード・メイボウム、ジョアンナ・ハーウッド、バークリー・マザー
撮影 : テッド・ムーア
プロダクションデザイン : ケン・アダム
特殊効果 : フランク・ジョージ
編集 : ピーター・ハント
メインタイトル・デザイン : モーリス・ビンダー
音楽 : ジョン・バリー

配給 : ユナイテッド・アーティスト

ショーン・コネリー / ジェームズ・ボンド
ウルスラ・アンドレス / ハニー・ライダー
ジョセフ・ワイズマン / ドクター・ノオ

ユーニス・ガイソン / シルビア・トレンチ
ジョン・キッツミラー / クオレル
ゼナ・マーシャル / ミス・タロ
アンソニー・ドーソン / デント教授

バーナード・リー / M
ロイス・マックスウェル / ミス・マニーペ二―
ピーター・バートン / ブースロイド少佐
ジャック・ロード / フィリックス・レイタ―

story

ジャマイカで、エージェント:ストラングウェイズが消息を絶つ。
ボンドはMから、その捜査を命じられる。ストラングウェイズは、アメリカの要請で、ケープ・カナベラルから
打ち上げられたロケットへの妨害に関して調査中であった。ボンドは、リモートコントロールによってジャイロ
スコープコントロールを狂わせる装置=トップリングが使用され、その発信地がジャマイカ付近である事を
突き止める。アメリカの月ロケット打ち上げを目前に控え、ボンドはその妨害者の発見と、危機の回避を
迫られる。


comment

記念すべき、第1回作品!

 初回時の劇場公開タイトルが『007は殺しの番号』というだけあって、この頃のボンドはすぐに人を殺し、映画全体が非常に暴力的である。
が、同時に小説(原作)には忠実で、冷酷ではあるが、現実感のある作品になっている。
 映像も演出も古く、いかにも昔の映画である。にもかかわらず、今見ても全然楽しめる傑作だと思う。

 やけに大きなガイガー・カウンターや、よく分からない研究所や、「そりゃ嘘やろ」と呟きたくなるカーチェイス等々、違った面でも楽しい。
『Q』も出て来ず、今では恒例の便利な小道具も何も無い。それが、現実的で質素なボンドを作り上げている要因の一つでもある。
 例えば、ドアに髪の毛を貼り付けたり、アタッシュケースの鍵に粉をかけたり、川の中で息ができるように葦を切って使ったりする。

 映画の序盤で、銃をベレッタからワルサーPPKに変えさせられるシーンは必見。ここから、かの有名な『ジェームス・ボンド=ワルサーPPK』
という図式が始まった。

 ショーン・コネリーもこれが最初のボンド。007の歴史はここから始まる。

 
 それにしても、とにかく、ショーンコネリーがかっこいい。強烈な存在感に、アクのある顔、冷酷でも魅力的な初期のボンドは今でも多数の
支持者を保っている。
 実際、ジェームス・ボンドは通常のヒーローではなく、アンチヒーローである。殺しのライセンスを容赦なく行使し、自分の楽しみのためだけに
何人もの女性とベッドを共にする。一流紳士服店のオーダーメイドのスーツを着こなし、ステアではなくシェイクした特別製のマティーニを飲む。
秘密情報部員とは思えぬ俗物ぶりである。実際、貧しい環境で育ったコネリーは、ボンドのライフスタイルになかなか同化できなかった。
監督・テレンス・ヤングは、コネリーに高級なスーツを身につけ、ワイシャツもネクタイも着けたまま寝るように指示したらしい。
 
 この作品の特徴を挙げるなら、アクションとユーモアが混ざり合っている所だろう。暴力的なシーンの後には、必ずボンドが皮肉とユーモアに
満ちたセリフをもらす。今日ではよく見られる手法だが、当時ではとても斬新なものだった。
 
 敵役のドクターノオは、鉄製の義手が印象的で、この役を演じたジョセフ・ワイズマンは、その義手に慣れるために、病院で数日間を過ごした
らしい。彼もこの後に続く悪役同様、自分に大きな自信を持っており、ボンドを捕らえてもすぐには殺さず、夕食に招き自慢を始める。
 このボンドと敵のトーク(皮肉たっぷりの)を交えた晩餐会はシリーズを通しての定番となる。
 
 初のボンドガールとなったハニー・ライダー(アーシュラ・アンドレスが演じた)の登場シーンも、非常に印象的である。
 
 それにしても、この頃の作品はほとんど音楽が無く、たまに(最近の作品よりは頻繁に)ジェームズボンドのテーマ(原曲)が流れるぐらいだ。
さすがに、サントラも買う気にならない。アクションシーンでも、全く音楽は無いので、何か不思議な印象を受ける。
 
 ともあれ、ボンド映画の基本とも言える2つの要素、クライマックスに起きる悪漢の司令部の大掛かりな大爆発と、脱出したボンドがボンドガール
と、誰にも邪魔されずに勝利を味わうシーンが誕生し、007シリーズがここに始まる


Scene

     【注意】 ネタばれを多く含みます。未鑑賞の方、お気を付け下さい 【注意】










●オープニング

 単調な音とプロデューサーのクレジットから始まる、ガンバレルシークエンス。
 少し長めの余韻が印象的な銃声が開幕を告げます。
 まだこの頃は、最初に歩いてくる人物はボンドではないんです。
 ボブ・シモンズさんかな
 丸い玉のネオンと、踊る人々のシルエット。本編の前に主題歌かと共にこういうタイトルが流れるのは
 今後ずっと続けられていきます。

●ストラングウェイズ邸

 本棚に見せかけた無線装置が、スパイっぽくていい。
 
●カジノ(アンバサダー・クラブ)

 ジェームズ・ボンドが、初めてその姿をスクリーン上に現す。
 今でもルールがいまいちわからない、バカラをお楽しみ中のボンド。
 タバコに火を付けながら、『ボンド・・・ジェームズボンド』と名乗る・・・
 何か物凄く悪そうな顔してますよ?明らかに正義のヒーローではないよねw

●マニーペニー&M

 マニーペニーの部屋に入るなり、帽子を帽子掛けに投げる。これも最近は見なくなりましたね。
 本気だか冗談だか分からないマニーペニーとの掛け合いも、ずっと定番になる要素。
 Mのオフィスで指令を受けるのも、これが最初。
 こういう定番がずっと続くことで、色んなものが変わってもシリーズとしての軸は揺らがなかったのです。

●ワルサーPPK7.65mm

 『ベレッタは婦人物のバッグに入るが、力不足だ』と、言われ、しぶしぶ愛用の拳銃を変えさせられる。
 そしてここから愛用の銃が、“ワルサーPPK7.65mm”に。
 こっそりベレッタを持って帰ろうとするも、Mに見破られ、それは置いていけと言われる。
 ベレッタの銃口を、Mの方に向くように置いていくあたりがせめてもの抵抗か。
 好きなシーンの一つです。

●シルビア・トレンチ

 カジノで知り合った女性。実は、この人もシリーズで続けて登場させる予定だったとか。
 いつもボンドにいいところまで近寄ってははぐらかされるというような・・・
 もし何十作も出てたらどうなっていたんでしょうね。
 
●空港着〜総督官邸

 空港到着は、ボンドのテーマにのって。かっこいいですな。
 まだ最初なので、このテーマ音楽がふんだんに使われています。
 予定外の事が起きても全く動じない冷静な行動。むしろ余裕さえ感じさせる落ち着き。
 ジェームズ・ボンドという人間の強さが既に現れています。
 そして、後部座席の死体を指差して、警備員に“逃がすな”と言うユニークさ。
 もうこの頃から出来上がってるんですね。

●ストラングウエィズ邸その2

 諜報員というのは、派手なアクションが仕事ではありません。
 やはり、地道で地味な調査活動が本分でしょう。
 残された状況から、何があったのか、手がかりは残されていないのか
 いろいろ調べて推理する、さしずめ探偵と呼ばれる人間と同じようなものですね。
 
●ホテル

 “ドライウォッカマティーニ”のステアではなくシェイクしたものが初めて登場。
 以後、ボンドといえばこれになります。
 このホテルの部屋では、最近ではまずやらない細かい動きが見られます。
 カバンの指が触る部分にパウダーをかけたり、クローゼットの扉に髪の毛を貼り付けたり。
 何だか真面目なスパイみたいですよ?w
 
●ボートハウス

 CIAのフィリックス・ライターが初登場。彼は、役者がいろいろ変わるものの、ボンドの友人として
 何度か登場することになります。

●デント教授

 ボンドに目をつけられたデント教授。ボスの、ドクター・ノオの元に相談にいきます。
 何故かアジア系の雑兵が気になる、ドクター・ノオの島。
 案内された部屋の何と無機質で妖しい雰囲気。すごいセンスです。
 
●ホテル(夜)
 
 部屋に戻り、仕掛けを確認する。わざわざ引き出しから新しいビンを出して酒を飲んだり、
 両足を机に投げ出してグラスを頭につけたりする仕草がえらくかっこいい。
 これはショーン・コネリーの魅力だなぁ・・
 そして毒蜘蛛の来客。最後、明らかに浮いているので不自然だけど、なかなかの緊迫感。
 何故か叩くたびに大きな音が鳴るのが印象的でした。

●ガイガーカウンター

 舟でガイガーカウンターを使って放射能を調べるボンド。
 この装置が、まるでカラオケセットみたいな巨大なもので・・・
 昔はこんなものだったんですかね・・

●カーチェイス

 時代が時代なので、まあ仕方が無いとは言え、どこからどう見ても明らかに合成の運転シーン。
 ゲームセンターの映像みたいw
 それでも、落ちていく敵の車を眺めながら『葬式に行くのさ』とか言う辺りはやはりボンド。
 
●スミス&ウエッソンは6発

 この作品で、一番好きなシーンです。
 グラスに酒を注ぎ、二人で飲んだ後のように机に置き、ソファを整え、スーツをかけ
 レコードに針を落とし、人が寝ているかのようにベッドを形作って、トランプを取って
 ドアの死角に座り、ワルサーにサイレンサーをつけ・・・
 そしてデント教授が現れるまでトランプで遊びながら待つんです。
 教授の銃が6発装填なのを見抜き、きちんと撃った回数も数え、反撃の機会もわざと与える。
 細かい状況分析と、大胆な態度、そして冷酷に殺しのライセンスを行使する。
 これぞ、ジェームズ・ボンド。
 
●島へ潜入
 
 終盤になってようやくボンドガール登場。
 スポンサーやプロデューサーを唸らせたという、あの海からの登場シーンはもはや伝説。
 ほんとに美しいです。
 島の中で、草を切ってシュノーケル代わりにするシーンは、秘密兵器などがない初期ならではのもの。
 その場の機転で切り抜ける原始的な魅力が味わえます。

●ドラゴンの炎

 ドラゴンてね・・・どう見ても戦車じゃないかwというつっこみをいれたくなる。
 そのチャチさが逆に記憶に残ります。

●ドクター・ノオとの会食

 敵のボスは、必ずすぐにはボンドを殺しません。
 自分の力を散々誇示し、ボンドの能力も高く評価しながら、自分の部下にならないかと誘ってきたり。
 懐の大きさというか、余裕を見せたいんでしょうね。
 でもこういう会食なんかで、交わされるボンドと敵との会話は
 いろんな比喩やユーモアを含んだ、とても見応えのあるものになるので毎回楽しみです。

●ドクター・ノオの最後

 これもまあ時代でしょうけど、原子炉を含む装置があんなチャチなものなわけがないw
 一応いろいろ考証した末のあのセットでしょうが、まあ・・・雰囲気は出てたのかな

●脱出〜エンディング

 そして今後お約束となる、敵のアジトの大爆発。
 ただ今回のは・・・メルトダウン・・核爆発なんじゃないのかな・・
 あの程度で済んでよかった良かった、というところですか
 終わり方はこれも以後定番となる、ボンドガールとの一時。
 ハッピーエンドは娯楽映画の基本です。